委託者の地位の相続について
遺言信託以外の信託において、委託者の地位や権利については相続の対象となります。つまり、遺言による信託でなければ、委託者が亡くなると相続人が委託者としての権利・地位を相続として承継することになるということです。
しかし、委託者が相続により複数人に増えることにより複雑になってしまうと、被相続人である委託者が意図した信託の本来の目的を達成できなくなる原因になってしまいます。そのため、委託者の意に反して相続人がその権利を引き継ぐことがないよう、一般的には委託者が万が一の時にはどのようにするのかを信託契約の中に定めておきます。
委託者同様に、受託者や受益者についても彼らが行方不明になった時や死亡時にその地位をどうするかについて信託契約の中に記載しておきましょう。事前に約束事が定められていれば、当事者の誰かに万が一のことがあった場合にも信託の運用が滞る心配がなくなります。
遺言信託の場合
委託者が遺言によって信託する旨を記し、作成した遺言信託では、委託者が死亡した時点から信託が開始されます。遺言信託の場合、基本的に委託者が遺言信託によって権利や地位について相続させる旨を定めていない限り、委託者の権利や地位は相続されません。委託者の地位や権利が相続されない理由の一つとして、受益者と相続人との間が利益相反する可能性があげられます。
特に相続人が複数人いてそれらの人が委託者の地位を相続すると、遺言信託を遺した委託者の意図に反して、受益者が利益を得ることに対し反対する相続人が現れる場合もあります。それでは本来の信託契約の目的が達成できません。そのため委任者が遺言信託において相続人に相続させる意思を示さない限り、相続の対象とはならないとされています。
なお、委任者の地位や権利が相続されない場合には委任者不在のまま信託は継続することになります。